1950年の創業以来、接着剤専門メーカーとして顧客のニーズに応えてきた菊井商会。丸亀の基幹産業であった丸亀うちわを貼り合わせる「でんぷんのり」からスタートし、木材や紙など、多孔質材料の接着剤を顧客ごとに開発するようになった。2015年にそれまで不可能とされていた生コンクリートにシートを接着させる「コンクリート保湿保温シート」を開発。トンネルや橋脚、ダム工事などに活用できることから建設・ゼネコン業界から注目を集めるように。その後も、保湿保温シートをリサイクル可能にするための改良や「コンクリート長寿命化フィルム」など、時代に合わせた商品開発を行っている。
それまで不可能と言われていたコンクリートの養生シートを開発
丸亀うちわに使用するでんぷんのりの技術を活用し、お客様の要望に合わせてさまざまな接着剤を生み出してきた菊井商会。ユーザーごとに商品をつくり出していくというきめ細やかな姿勢は、創業以来、代々受け継いできたもの。現在、幅広い要望に応えて接着剤を開発しているのが、同社の3代目であり取締役の保井拓朗さんだ。
時代に合わせて変化しながら、木材や紙などの多孔質材料への接着剤などを柔軟な姿勢で生み出してきた同社に、ある時持ち込まれたのが「トンネルの施工や補修時にコンクリートの表面を覆うシートをつくれないか」という相談だった。コンクリートは施工した後の一定期間、表面を密閉することで保温・保湿をする必要がある。だが、生コンには水分があるため接着剤で養生シートを貼りつけるのは不可能とされ、高所作業用の足場を設置するなどしてシートを補強するのが一般的だった。特殊な設備や専門の作業員が必要なため高コストになる従来工法。接着剤を塗布したシートを貼り付ける工法へと変更ができないか、という難題に対し「これまでに蓄積した技術があれば可能だ」と保井さんは快諾。開発と試作を重ね、2015年「コンクリート保湿保温シート」が誕生した。
コストダウンをさらに可能にし環境にも優しいシートへと改良
特殊な再剥離粘着剤を塗布するこの保湿保温シートは特許も取得。2018年には、四国の産業技術発展のために貢献した企業に贈られる「四国産業技術大賞」で、最高賞の産業振興貢献賞を受賞した。
当初はシートを使用するごとに廃棄していたが、トンネルを中心に高速道路の橋脚、防波堤やダムなど200件以上もの工事に使用されるようになったこともあり、SDGsの観点から再利用が可能なものに改良できないかという声がユーザーから寄せられるようになった。
「もともと塗布しているのが再剥離できる粘着剤なので、粘着剤などの配合を変えれば、理論的には再利用できるものへの改良は可能」そう考えた保井さんが改良に取り組んでいた2020年の冬、新型コロナウイルスの影響によって建設業界全体がコストカットを余儀なくされるように。できるだけ早く再利用できるものへと改良してほしいという声が強くなる中で「いくつもの仮説を同時にたてて、配合を変えたテストピースを数種類用意して繰り返しテストするなど、開発のスピードを上げました」と保井さん。2021年には、大規模工事において実際に使用する最終チェックを終え、ついに2022年、再利用可能なシートが完成した。
サスティナブルな社会に必要とされる存在であるために
改良版のコンクリート保湿保温シートと前後して誕生した「コンクリート長寿命化フィルム」もまた、これからの時代に必要とされるアイテムだ。「劣化してきたら壊して新しくするスクラップ&ビルドではなく、メンテナンスで安全性を確保し長く使い続けるという時代のニーズにあわせたフイルムです」。このフィルムを経年コンクリートに貼り付け、しばらくしてフィルムを剥がすと、粘着剤などを独自の配合で組み合わせた強化剤のみが表面に残り、コンクリートの表面を保護し、強度を上げる。年月が経ったコンクリートにフィルムをラップのようにピタッと密着させる必要があり、何度も試作を重ね、完成した。老朽化してから補修や改修をするのではなく、定期的に点検しフィルムを塗布してメンテナンスをすることでコンクリートの寿命を延ばすという画期的なフィルムだ。
お客様の要望に応えるためにコツコツ開発するというのが、創業以来、受け継がれている菊井商会の姿勢だ。コロナ禍で工事の延期や中止によって売上は下がったものの、開発などの相談が尽きることはなかったという。「これからも時代の変化に対応しながらニーズに合わせて開発するだけ」と保井さんは微笑んだ。
株式会社菊井商会(会社概要)
所在地 | 丸亀市土器町1-9-31 |
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電話 | 0877-22-3725 |
ホームページ | https://kikui-shokai.com/ |
資本金 | 10,000千円 |