香川県内企業・財団の取組

高松伝統の保多織が現代の装いに生まれ変わる(ツムギ)

ただの伝統織物ではない魅力がある

ツムギは、高松伝統の織物で香川県伝統的工芸品に指定されている「保多織(ぼたおり)」を現代的な装いにアップデートすることを目指して2017年に開業した。

保多織は、高松藩の初代藩主・松平頼重公に命ぜられた京都の織物師・北川伊兵衛常吉が創案。平織りの横糸の4本目を浮かせて織ることが特長で、凹凸のある生地感が生まれると同時に、浮いた隙間に空気の層ができるため、夏はサラッと、冬は生地の冷たさを感じずに着ることができる。丈夫で長く使え、「多年を保つ」のでこの名がついたと言われ解、江戸時代は献上品となるような高級な織物であったが、明治以降は、技法が解禁されるとともに絹糸を綿糸に切り替えることで、一般家庭に普及。保温性、吸水性に富んだ生地として愛され、最盛期となる1960年代には県内に数社の織物会社があったという。しかし、化学繊維の登場などにより需要が減少し、現在は1社のみが残る状況である。ツムギの代表でありデザイナーの平川めぐみ氏は、以前、この企業で働いていた。その際に「もっと違うアプローチなら、保多織のことを多くの人に知ってもらえるはず」との思いが芽生え、開業につながった。

保多織の購入層は、60代~80代がメインで、若年層からの認知度は低い。伝統的な色や柄には味わいがある一方で、重たく暗いイメージにもなる。風合いや機能性に優れている生地ではあるが、ファッションは「着ることで気持ちが前向きになる」要素も大事だと考える平川氏。そこで、保多織に新しい生地感やカラーリング、柄を増やすことで、今までと違う客層にアプローチすることを狙った。まさに保多織のポテンシャルを引き出す試みである。同時に、上質なネームタグや下げ札を用意して、ツムギのブランディングを行った。

生地、色、柄に新鮮な発想を

保多織の新たな魅力を創出するために、平川氏は4つのことに挑戦した。①新しい生地をつくる②新しい色に染める③新しい柄をつくる④上質なネームタグや下げ札の開発である。いずれも、保多織らしさを生かすために、天然素材や地域性を重視。伝統の良さを残しながら、現代らしい服へ生まれ変わらせる。

①新しい生地については、スラブ糸を採用した。保多織は、一般的にはまっすぐで均一な綿糸で織られているが、太さにバラつきがあるスラブ糸を用いることで、より凹凸のある立体的な生地に仕上がった。スラブ糸を藍や柿渋で染めることで、瀬戸内の自然をイメージさせるカラーリングも生まれた。

②新しい色の染色については、香川県特産の「まんば」や「金時人参」など、規格外の野菜を原料に用いた。天然素材を用いた染色を得意とする工場とタッグを組んでの共同作業。バランス調整に一部、化学染料を用いているが、まんばの緑色と金時人参の赤色に染めることに成功した。従来の保多織のイメージを一新させるような、淡く明るいパステルカラーである。

③新しい柄については、県内在住の画家とのコラボレーションにより「せとのつぶ」と「こもれび」の2つの柄を制作した。手ぬぐいなどに用いられる「注染」という伝統的な方法で染めることで独特なグラデーションも生まれた。

④ネームタグと下げ札については、地元企業に依頼し、刺しゅうを施した美しいネームタグと、土佐和紙による風合いある下げ札が完成した。

かねてより挑戦したかったことばかりなので「苦労は感じなかった」と言う平川氏。とはいえ、野菜を使った染色では、野菜を提供してくれる農家を探して交渉するなど、粘り強く努力を重ねたからこそ、4つの取り組みを成功させることができた。サンプルを手に、初めて東京や大阪の展示会に出展したところ、バイヤーからの評価は上々。「せとのつぶ」は通販会社を通して販売されることになった。何の先入観もない相手から一定の評価を得たことで、平川氏は手応えを感じている。

課題の生産能力を向上させる

開発した商品には、全国を相手にできる力があることが分かったが、課題は生産能力である。現在は平川氏が一人でツムギを切り盛りしており、生産量は限られている。自社によるネット通販もできず、各地で展開されている期間限定のポップアップストアでの販売に頼っている状況だ。「生産量がネックとなって逃している取引もあるので、人を増やしたい」と平川氏。ある程度のマンパワーが確保できれば、次のステップに進むことができる。今後、保多織の可能性を広げる取り組みとして考えているのは、綿とは違う素材に変えること。例えばウールを使って織れば保温性が高くなり、春夏がメインの保多織に秋冬向けの商品を加えることができる。また、ポリエステル繊維で織ればシワができにくくなり、今以上にデイリーウエアとしてのニーズに応えられる。ツムギの柔軟な発想は、織物に限らず、伝統工芸を現代に復活させるヒントになりそうだ。

商品にかける熱き想い

私のような資金力のない個人事業主には、とても意義のある支援でした。公的なバックアップを受けているから、他の企業が協力してくれた面もあり、心強く感じました。今後は、何よりもまず地域の人に保多織を知ってもらい「地元にこんな素敵な織物がある」と、誇りに感じてほしいと願っています。

代表 平川 めぐみ 氏

ツムギ

事業者概要

電話090-3780-7607
URLhttps://tsumugi-tak.com/