香川県内企業・財団の取組

おいしさだけでなく、見せ方の工夫が商品力になる(宝食品株式会社)

宅杯瓶シリーズ:(左)ほたて 柚子唐辛子味、(右)ムール貝 燻製風醤油味

佃煮に並ぶ新しいジャンルの製品の必要性

宝食品株式会社の創業は、戦後間もない1948年。食糧事情が悪い中で、地元・小豆島の名産品である醤油を使って、芋のつるなどを煮て佃煮を製造する会社としてスタートした。その後、佃煮を中心とする食品メーカーとして成長。OEM製造の拡大のほか、業務用商品、レトルト食品などに業容を広げ、2020年には同社の佃煮「ちりめん山椒」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が推進する『宇宙日本食』として認証された。また、観光地として小豆島の人気が高まり、土産品の売上も経営の柱のひとつになった。近年は海外からのインバウンド需要も後押しして、直営店となる「京宝亭」は多くの来客でにぎわっていた。

しかし、コロナ禍によって状況は一変する。島から観光客が姿を消し、土産品の売上は激減。巣ごもりによる内食需要は高まる中でも佃煮の売上の伸びは鈍かった。日本人の食生活の変化による佃煮離れが浮き彫りになったのだ。コロナ対策の商品としてだけでなく、今後を見据える上で、佃煮とは異なるジャンルの商品開発が必要となった。

これらの事情を前提に、同社では「内食に対する需要は継続する」と考えて、3つの製品を開発・改良した。家飲みに着目した「プレミアムおつまみ」、日常食としても備蓄食としても使える「レトルトおかゆ」、おうち時間を楽しむ初心者向けの「ぬか漬けパック」である。

開発の中心となったのは、営業部・開発部の若手社員をはじめ、新しく立ち上げられた企画課。販売の実務を担う営業部や試作・開発の実務を担う開発部とは別に、商品の方向性や売り出し方にアイデアを出す部門である。企画課をはじめ若手社員には、社員のチャレンジ精神を尊重する代表取締役の大野英作氏の「これまでの社内の常識にとらわれずに、大胆に活動して欲しい」という期待が込められている。

育てるぬか漬パック
おもいやり鯛出汁入りおかゆ

若い感性が時代のニーズを捉える

今回、企画課長の久松弘長氏と共に、大きな力を発揮したのが入社7年目の平木氏と入社2年目の濱野氏。自分の感性を信じて、臆せずに意見を出している。プレミアムおつまみについては、若い女性が手に取りやすい商品を目指した。おつまみは男性をメインターゲットにした商品が多く、パッケージも野暮ったい。それらとは一線を画すおしゃれなおつまみが濱野氏のイメージだ。

まず、既存の技術を生かせる食材として貝に目を付け、開発部の意見を踏まえ、ほたてとムール貝を選定。産地の確かな食材だけを選んで調理し、ほたては柚子唐辛子味に、ムール貝はスモーキーな醤油味に仕立てた。ハイボールや白ワインとの組み合わせを想定しているのも今どきだ。デザイン性に優れた高級感のある瓶のパッケージで、よくある缶詰とは差別化。お酒と一緒に一日の疲れを癒してくれるプレミアムなおつまみが完成した。「炊き加減で変わる食感と味の濃さを何度も調整した」という濱野氏。久松課長は「佃煮とは違う新しいジャンルとして育てていきたい」と意気込む。

レトルトのおかゆは、すでにあった長期保存用「おもいやりごはん」シリーズの「鯛だしおかゆ」を改良した。体に優しいことをコンセプトにしているため、元々は大麦と発芽玄米を使用していたが、おいしく食べられることを優先させて、うるち米に変更。鯛だしのスープのうまみを素直に感じられる上質なおかゆになった。日常食として食べてもおいしいので、防災用に買い置きしておけば、買い物に行けない場合や、料理の時間が無い時などに重宝する。食材を変更することで、今までより一段と用途が広がった。

「ぬか漬けパック」は、中身は同じままでパッケージを一新した。おうち時間が増える中で、初めてぬか漬けに挑戦する人が増えている状況に合わせたのだ。イラスト付きで丁寧に作り方を紹介するとともに、商品名を「育てるぬか漬けパック」に変更すると、商品の注目度が一気に上がった。

開発の過程では、社員を招いて試食会を開き、意見を集めている。軽いパーティーのような和やかな時間で、そのアットホームな社風も同社の強みである。

(左)企画課 濱野 梨花 氏  (右)営業部兼企画課 課長 久松 弘長 氏

「醤油」文化圏に市場の可能性あり

いずれの商品もまだ売り出し始めてから期間が短く、本格的な評価はこれから。それでも「宅杯瓶シリーズ」と名付けたプレミアムおつまみは若い女性客、育てるぬか漬けパックは男性客など、新しい顧客層の開拓に一役買っている。立ち上げたばかりの企画課が結果を出したことも明るい材料だ。

高齢化の進む既存客だけでなく、新規顧客をどれだけ獲得できるか。販売店やバイヤーへの営業のほか、カフェを併設する直営店・京宝亭やネットショップと連動したプロモーションで、新しいファンを取り込んでいく。それと同時に、大野社長は海外にも目を向けている。2020年にグループ会社となった株式会社高橋商店の調味料「そら豆醤油」をはじめ、日本食として「佃煮」を売り出すビジョンだ。数年前には一時的に台湾に出店し、ある程度の評価を得られた。「調味料として醤油(魚醤を含む)を使っている国には佃煮を受け入れる土壌がありそう」と大野社長は言う。数年後には小豆島の佃煮が、世界のTSUKUDANIになっているかもしれない。

カフェを併設する直営店・京宝亭

商品にかける熱き想い

現在、当社の商品構成は7割が佃煮。これからは、今回のおつまみのような佃煮以外の商品を5割くらいまで増やしていきたいと考えています。リスクを伴う新しい挑戦が必要になりますが、そういう時こそ公的な支援が心強いです。

代表取締役社長 大野 英作 氏

宝食品株式会社

会社概要

所在地小豆郡小豆島町苗羽甲2226-15
電話0879-82-2233
URLhttp://www.takara-s.co.jp/
従業員数89名
資本金4,500万円