「今搾りたい」+「小豆島産オイルでそうめんを」
平成20年にオリーブ栽培100周年を迎えた小豆郡内海町(現・小豆島町)では、その数年前から、オリーブ栽培を奨励し、オリーブ産業の発展や観光面での経済効果を見込んでいた。
その2年前の平成18年。空井農園の空井和夫さんは、60歳の定年退職を機にオリーブ栽培を始めた。まだ安田オリーブ研究会が結成される前のことだ。当時、オリーブ栽培100周年を目前に控えた小豆島では、オリーブの本場、スペインやイタリアから生産者を呼び、栽培講習会など、島中でオリーブの勉強会が盛んだったという。ある講演のあとで、空井さんは収穫や搾油のタイミングについて直接、指導を受ける機会があった。「言われたとおりにやってみたら、それまでとは全然違うオイルが搾れた。初めて、その特徴と聞いていたリンゴの香りがした。もう、びっくりしてね」と、興奮気味に当時を振り返る。空井さんが「リンゴの香り」を感じたのはオリーブの品種のひとつ、ミッションだった。
当時、小豆島オリーブ公園にあった搾油機は一度に50キロほどしか搾れないものだったため、収穫シーズンは皆、順番待ちだったという。「今搾りたい」と言っても当然、空いていなければ搾れない。収穫と搾るタイミングが非常に重要だと教えられても「自分たちの搾油機を持ち、直接搾油しなくてはダメだ」と、空井さんは痛感した。このことが安田オリーブ研究会を創設するきっかけにもなった。
一方、空井さんと近所で、同じようにオリーブ栽培も始めた中武商店の中武義景社長は、素麺にオリーブを混ぜ込んだ自社製品を模索していた。
オイルの品質向上と“小豆島産”へのこだわり
そうめん製造・販売店「なかぶ庵」を運営する中武商店には、オリーブの島ならではの課題があった。当時製造していたオリーブそうめん(乾麺)は、そうめん生地に、あらかじめ加工処理したオリーブの実をクラッシュして加え、麺を伸ばす際のオイルは、小豆島産オリーブオイルの供給が足りず、外国産オリーブオイルを使っていた。ところが「あるお客さまに言われたんです。『オリーブそうめんとは、小豆島らしくていいですね』と。これは困った、と思いました」(中武社長)。どこにも「小豆島産オリーブオイル使用」とは書いていないし、売る側も客をだます気など毛頭ない。しかし、客は間違いなく誤解していた。その後、中武商店では外国産オリーブオイルを使用したそうめんの製造を3年ほど中止した。島のそうめん業者にも「お客さまが勘違いするようなものを売っていては、島全体の信用を失うことになる」と忠告したという。製造を中止している間に「小豆島産オイルが手に入らないなら、自社で栽培しよう」と、当時承認された「小豆島・内海町オリーブ振興特区」の制度を活用して農業参入し、オリーブ栽培を開始した。
また、同じ頃、安田地区には、同様にオリーブ栽培を始めた50歳代から60歳代の生産者が10人ほどいたが、皆、初心者。栽培も搾油も手探りで、ただ周囲と同じようにしているだけの状況だった。
①なんとかオリーブの搾油機を手に入れて質の高いオイルを追求したい、空井さん。
②オリーブそうめんを小豆島産のオリーブオイルで製造したい中武商店。
③手探り状態でオリーブ栽培を始めた安田地区の生産者。
これらの課題をうまくひとつの事業にまとめてくれたのが、当時、県の普及所( 現・小豆農業改良普及センター)に勤めていた職員だった。職員の提案で、空井さんも含めた「安田オリーブ研究会」が創設され、地域で質の高いオリーブ栽培に取り組むことになった。安田オリーブ研究会で安定的に高品質なオリーブオイルが確保できれば、中武商店では、外国産オイルに頼ることなくオリーブそうめんが製造できる。この事業では新規性を考慮し、乾麺ではなく、独特の食感をもつ生そうめんでオリーブそうめんの商品開発に取り組むことになった。こうして、農商工連携事業として、オリーブ栽培技術の向上と搾油機を導入したオイルの品質向上、そしてオリーブ生素麺の商品開発が、事業の柱となった。
互いに情報交換しながらさらに精度を極める
事業期間中には、連携両者で先進的なオリーブ畑や、幕張の国際的な食の見本市FOODEX JAPANに視察に行ったり、サンメッセ香川で開催された「食の大博覧会」(県主催)では、みごとなチームワークで高品質オリーブオイルの試飲や、オリーブ生素麺の試食を提供した。
空井さんは「あの期間に、間違いなく研究会の栽培、搾油のレベルは相当上がった」と、振り返る。
中武社長も「3年前にうちのオイルが足りなくなって困ったことがあったが、研究会から、そうめんにも回してもらえた。地域の仲間で安定供給が可能な状況というのは、本当に安心感がある」という。
また、空井さんは、事業当時からオリーブオイルで他社との差別化を目指していた。多くのオイルは品種のブレンドが多いなか、ルッカやミッションなど単一品種のオイルにこだわった。当時は3種類ほどだったのが、今では8種類にもなっている。ここまで単一品種にこだわっている生産者は珍しい。今ではその空井さんを筆頭に、安田オリーブ研究会の中には、海外の品評会で高い評価を得ている人もいるほどだ。
そして、当時10名だった研究会のメンバーは、現在、安田地区以外の生産者やオリーブオイルソムリエなどの支援者も加わり、20名を数えるようになった。農商工連携事業から9年。今もオイルの品質向上、オリーブ生素麺の販路拡大など、さらに上を目指して取り組んでいる。
農商工連携事業に取り組んでみて
安田オリーブ研究会で協力してオリーブの栽培・搾油ができるようになり、今では小豆島産オイルの原料確保に不安がなくなりました。
中武商店 代表取締役社長 中武 義景 氏(写真 右)
リンゴの香りの衝撃からどんどんのめり込みました。単一品種の中でのブレンド技術など、さらに品質向上にこだわっていきたいです。
安田オリーブ研究会 空井 和夫 氏(写真 左)
株式会社中武商店
会社概要
所在地 | 小豆島町安田甲1385 |
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電話 | 0879-82-3669(代) |
URL | https://shodoshima-nakabuan.co.jp |
従業員数 | 10名 |
資本金 | 10,000千円 |
安田オリーブ研究会
会社概要
所在地 | 小豆島町安田甲1006-2 |
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電話 | 0879-82-3669(空井) |
会員数 | 10名 |