香川県内企業・財団の取組

香川県産海苔を多くの人に知ってほしい 養殖海苔の産地の熱い思いが生んだ商品(麺処 希信、浜谷水産)

瀬戸内海の海苔養殖を見ながら育った“ふたり”

「ぼくらは高松の港町、瀬戸内漁港沖の海を見ながら育ちました。海苔養殖はぼくらにとっては冬の当たり前の光景でした」。海苔養殖業を営む浜谷水産の浜谷恭平さんと、ラーメン店麺処 希信店主の糸谷翼さん。糸谷さんの実家もかつて海苔養殖業に携わっていただけに、ふたりにとって海苔は特別な存在だ。糸谷さんの兄と浜谷さんが同級生だった縁で、お互い子どもの頃からの顔見知りだった。

ふたりとも、香川県民なら誰もが知っていると思い込んでいた香川県産海苔。ところが大人になるにつれ、香川で海苔を作っていることを知らない人がたくさんいることに気がついた。香川県産海苔の生産量はここ数年、全国5位、6位を推移しており、漁業のなかでも主要産業のひとつになっている。

「香川県産海苔があることをもっとみんなに知ってほしい」。そんなシンプルな思いがこの事業のきっかけだった。

事業を活用する前年の平成27年、二人は「麺処 希信」の店頭メニューに「海苔ラーメン」を登場させた。こだわりは麺。海苔は板海苔に加工する際、破れ海苔や、裁断の際に粉状の海苔が出る。浜谷さんはこれを有効活用したいと考えていた。そこで糸谷さんが製麺所に、麺に粉状の海苔を練り込んだ生麺を作ってもらった。麺をかむたびに広がる、海苔の風味。塩スープとの相性もよく「海苔ラーメン」はすぐに店の看板メニューのひとつになった。そして「これをお土産用にできないだろうか?」と、農商工連携事業で商品化することになった。

「潜り船」と呼ばれる海苔収穫専用船

やっとたどり着いた! 製麺所探しに約1年

最初の難関は半生麺の製造だった。これは、コンセプトを伝えて外注するのだが、なかなか引き受けてくれる製麺所が見つからなかった。まず、香川県内の製麺所を順に当たってみた。オーダー内容は“生麺に海苔を練り込み、茹でたときに海苔のおいしさを再現させる。半生麺で麺の色は海苔の緑色。賞味期限は”6カ月”というものだった。

「県内だけでも12~13件は問い合わせたのですが、どこも断られました」(糸谷さん)。ほとんどの製麺所に「半生麺だと賞味期限1週間が限界」と言われ、「あまりにあっさり断られてしまうのが悔しかった」と振り返る。ロットの問題もあった。一度に注文できる量は、せいぜい500~600玉。最低ロットが何千玉という単位の違いにまったく話にならなかった所もあった。

店頭メニューの「海苔ラーメン」の生麺は、栃木県の製麺所が作っている。思い切ってふたりで栃木まで出向いて相談した。残念ながらそこでいい返事はもらえなかったが、有力な情報を得ることができた。

「広島の同業者にすごい人がいるから聞いてみるといい」と、多少無理なオーダーでも挑戦してくれる製麺業者を紹介してくれたのだ。さっそく電話をしてみると「できるよ」と、拍子抜けするくらい、あっさり返事が返ってきた。

「『できる』と聞いたときには、もう、心底『ヤッター!』って思いました」(糸谷さん)。「海苔業者としても、とにかく海苔の風味を残した麺にしてほしかったので、妥協しないで探してよかった」(浜谷さん)と、振り返る。最小ロット500玉で引き受けてもらえることも確認し、この出会いが一気に実現化へ拍車をかけた。最初の製麺所に掛け合ってからすでに1年が過ぎようとしていた。

次の課題はスープ。当初は「海苔を生かした特徴的な麺さえ作ることができたら、スープは市販のものでいい」くらいに軽く考えていた。しかし、20数種の出来合いのスープを取り寄せて試食してみて気がついた。

「あれだけ必死になってこだわった麺が生きてこない。“どこにもないような海苔ラーメン”を作るなら、ここで妥協するわけにはいかない」と。

理想的なスープは、店頭メニューの「海苔ラーメン」で使っているオリジナルスープだ。ならば、それを製品に付けるにはどうしたらいいか、に考えを切り替えた。濃縮して小袋に充填するにはどうしたらいいか。人伝いに探すうちに、高松市内に引き受けてくれる業者が見つかった。

店頭メニューの「海苔ラーメン」(左)のスープを濃縮して土産用にも採用
開発商品・土産用「釜揚げ風海苔らーめん」盛り付け例

弾みがついたコンクールの優秀賞受賞

海苔を練りこんだ半生麺は茹で汁にたっぷり海苔の香りが溶け出す。麺は湯切りすることなく、そのまま茹で汁に濃縮スープを加えて仕上げる“釜揚げ風”にして、瀬戸内の恵みを凝縮させた、土産用の海苔ラーメンが完成した。商品名は「釜揚げ風 海苔らーめん」。パッケージは高松在住のイラストレーターによるおいしそうでインパクトのあるラーメンのイラストにした。2食入り1,080円。インスタントラーメンと比較したらもちろん高いが、こだわりを伝えるリーフレットを添えて、消費者に理解してもらい、親しんでもらえるようなものにした。

販売は農商工連携事業終了後の平成29年10月から、両者の直接販売と新たに立ち上げたネット販売で、徐々に売り始めた。しばらくして、東京の地方物産店にも並ぶようになり、「おもしろい」と買ってくれる客が少しずつ増えてきた。

うれしいできごともあった。平成30年春、県が毎年開催している「かがわ県産品コンクール」にエントリーしたところ、食品部門で「うどん県。それだけじゃない香川県」優秀賞を受賞。大きな宣伝効果につながった。

「県の漁連(香川県漁業組合連合会)や水産課の人もアドバイスをくれたり、応援してくれました」と浜谷さん。県内の取り扱い店は「かがわ物産館栗林庵」や「道の駅 源平の里むれ」、東京では「香川・愛媛 せとうち旬彩館」「日本百貨店」など、順調に拡大している。なんと、海外からも取引希望があり、「ニューヨークでは『海苔らーめん』を使ったラーメンサラダや、シーフードを和えた海鮮ラーメンなど、いろいろな販売構想を練っています」と糸谷さん。また、要望が多かった1食入り商品を間もなく発売予定だ。ふたりの夢はまだまだ続いている。

H30年度かがわ県産品コンクールで優秀賞を受賞

農商工連携事業に取り組んでみて

申請書や報告書づくりは苦手でしたが、頑張って商品を完成させることができて本当によかったです。これからどんどん売っていきます!
麺処 希信 店主 糸谷 翼 氏(写真 右)

日中は海に出て、夜は試食や打ち合わせという日々はつらかった(笑)。近所だからこそできた気がします。これからさらに販売体制を整えていきます。
浜谷水産 浜谷 恭平 氏(写真 左)

麺処 希信

会社概要

所在地 高松市瀬戸内町5-15
電話 087-813-4807
URL http://mendokoro-kishin.com
従業員数 6名

浜谷水産

会社概要

所在地 高松市浜ノ町47-8
電話 087-813-4807
URL http://nextsanukimen.com
従業員数 6名