希少性の高い“国産きくらげ”で加工品を
高橋石油は石油製品やLPG(LPガス=プロパンガス)などを扱うエネルギー企業である。それがなぜ農業参入なのか?
平成27年より高橋石油は栽培生産事業部を立ち上げ、中国料理や薬膳などで知られるきくらげの栽培を開始。まず、菌床栽培用ビニールハウス「きくらげハウス」を建設した。一年中収穫するためには、加温や加湿などハウス内の環境を一定に管理する暖房設備が必要だ。一般的には重油ボイラーを備えるハウスが多く、経費の中でも燃料費が占める割合が高いことが課題となっている。しかし、高橋石油は熱源に困ることはない。「ハウス栽培はエネルギー企業だからこそできる農業参入」と話すのは高橋石油栽培生産事業部の末光和夫課長。「日本で消費されるきくらげの9割以上が輸入品、ほとんどが中国産です。国産がほぼないという市場だからこそ、挑戦してみたい、と思ったわけです」。
その高橋石油と連携した中小企業者は小豆島の佃煮メーカー、宝食品。一番の売れ筋商品は「子持ちきくらげ」だ。「原材料のきくらげは、安定供給の面から中国産です。昨今の国産を求める消費者ニーズにも応える必要があると、ここ数年考えていました」と話すのは、宝食品の大野英作社長。平成28年度の農商工連携事業申請時には、常務取締役として主導してきた。「高橋石油さんと連携できると、原材料は単に『国産』だけではなく、同じ地元の『香川県産』がうたえる点でも魅力でした」(大野社長)。また、宝食品は平成28年に第2工場を新設しており、その稼働率を上げたいという思いもあった。
こうして、国産きくらげを栽培していく企業と、それを原材料に加工品を作りたい企業が連携して、香川県産のきくらげ商品を新たに開発することになった。
栽培技術の習得と商品開発のスピード感
きくらげ栽培の経験が乏しい高橋石油では、事業計画の中に「冬場に収量が40%も減少する現状を改善したい」と、「栽培技術の向上」も目標に掲げていた。ハウスの加温は「LPガス床暖房システム」と呼ばれる、床に張り巡らせた管に温水を循環させて温めるしくみを応用した。「その熱源が、クリーンなLPGなんです。我々には圧倒的な優位性があります。一般の農業者がガスを引いて床暖房を設置したら、まったく採算が合わないでしょう」と末光課長。ところが、当初はきくらげ栽培に最適な床暖房のコントロールやハウス内の環境設定条件がわからなかった。「農業のプロなら、肌感覚や匂いなど五感で判断するのかもしれませんが、我々は業界違いの素人ですからそんなスキルはありません。温度や湿度、CO2の濃度など、一つのハウスで4カ所くらい、測定記録を取り続けました」(末光課長)。例えば吸排気の条件を変えるなど、リスクも覚悟でいろいろと条件を変えてデータを取り続けた結果、1年くらいでだんだん予測がつくようになり、手応えを感じ始めたという。結局、1年以上記録した数値の平均値が見え始めたところで「平均値を目安として、このくらいの温度、湿度、CO2濃度を維持すればいいということが感覚的にわかってきました」(末光課長)。
安定栽培の見通しが立つとそこからは早い。きくらげは生と乾燥品を手がけ、ブランド名「さぬきくらげ」の名称でパッケージを一新し、販促活動を強化した。大野社長は「末光さんはやることが早い。加工品についても弊社が引っ張られる感じでしたね」と振り返る。うまくいなかいときは「じゃ、こっちでテストしてみましょう」(末光課長)と、あれこれ切り替えて進めるのが早かった。そうして誕生した新商品が「チョイたし きくらげ」だ。きくらげの傘の部分と石付きに近い部分を刻んで味付けした、新食感の佃煮だ。「チョイたし」というのは、味、食感のアクセントにちょっとプラスする、という意味。チャーハンやパスタのトッピングなど、幅広く使ってもらえる、両者の自信作となった。
きくらげと加工品の詰め合わせ商品を
今回の農商工連携事業で最終的に製品化したのは「チョイたし きくらげ」の1商品だが、そこに至るまでには、きくらげのスープや総菜など、いくつかの試作があった。「順次、それらもブラッシュアップして製品化していきたいです」と、大野社長はシリーズ化にも意欲的だ。また、当初、計画に掲げていた「両者の製品を詰め合わせた贈答用製品もぜひ完成させたい」と、これは事業終了後も引き続き、取り組んでいる。
きくらげの栽培方法を確立した高橋石油では、すでに次の課題に取り組んでいた。「この8月からグローバルGAPの取得に向けて動き始めました」と末光課長。間もなく承認される見込みだ。グローバルGAPはヨーロッパ発祥の、生産管理工程の取り組みについて評価される世界基準の認証制度。単に「国産」という以上に農業生産者としての信頼の証になる。
また、両者ともに出展した「スーパーマーケット・トレードショー」などの見本市では、「チョイたし きくらげ」だけでなく、きくらげそのものもバイヤーから好感触を得ることができた。取引先はさらに拡大していきそうだ。
「今回の連携事業で一番良かったのは、高橋石油さんとの絆がより深まったこと。いろいろな意味で弊社も刺激を受けました」と大野社長。新たな信頼関係はお互いを切磋琢磨し合える点でも、理想的な連携事業となった。
農商工連携事業に取り組んでみて
商品開発に必要な材料や道具は、積極的に導入する方向で取り組んでいます。事業を活用することでそこを支援していただけたのはありがたかったですね。
宝食品 代表取締役社長 大野 英作 氏(写真 右)
弊社のきくらげ加工品ができたのは本当にうれしい。きくらげそのものを使ったレシピ本のようなツールも用意して、さらに普及させたいです。
高橋石油 栽培生産事業部課長 末光 和夫 氏(写真 左)
宝食品株式会社
会社概要
所在地 | 小豆島町苗羽甲2226-15 |
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電話 | 0879-82-2233 |
URL | http://www.takara-s.co.jp/ |
従業員数 | 86名 |
資本金 | 45,000千円 |
高橋石油株式会社
会社概要
所在地 | 三木町井戸2467-3(栽培生産事業部きくらげハウス) 高松市三条町50-3(本社) |
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電話 | 0879-82-2233 |
URL | https://www.sanu-kikurage.jp |
従業員数 | 165名 |
資本金 | 30,000千円 |