香川県内企業・財団の取組

重量わずか6kgながら強度は鉄の10倍CFRP製のロードバイクが誕生(有限会社アイヴエモーション)

ミニベロの次は、ロードバイク市場に参入

(有)アイヴエモーションは、「Tyrell(タイレル)」のブランド名で小回りが利く小型のタイヤを使用したミニベロ(小径自転車)を製造・販売している。同社は、平成16年の創業以降、代表者の廣瀬氏が独学で自転車の設計に取り組み、平成22年に発売した世界最軽量・高性能折り畳み自転車(Folding Bike)のヒットを契機に、自転車専門誌やメディアに多数取り上げられ、高級小径自転車市場でのブランド力、知名度は飛躍的に向上した。現在では、国内約100店舗におよぶ販売網を構築し、海外7ヵ国に輸出を行っている。

このようななか、代表者の廣瀬氏は、既存の高級小径自転車市場だけではなく、自転車市場の中で最もシェアの高いロードバイク市場に参入したいと考えたが、そのためには、国内外のライバル企業と差別化を図った独創的な発想の製品開発が必要であると感じていた。そこで、世界有数の素材メーカーが四国に集積し、また行政や公設試験機関のバックアップなどによる産学官の強力な連携の享受が期待可能なCFRP*1製の高性能ロードバイクフレームを開発しようと考えた。

*1 炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic)のこと。強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックであり、母材には主にエポキシ樹脂(強化材と組み合わせることで接着性や耐熱性を持つ化合物)が用いられる。高強度と軽さを併せ持つため、スポーツ用途(ゴルフクラブのシャフト、釣竿など)から実用化が始まり、飛行機、自動車などの産業用にも用途が拡大している。

先端素材を国内で初めて成形から加工まで挑戦

CFRP製の高性能ロードバイクフレームの開発は、「世界一優れた競技性能」、「100km走っても疲れない」、「体にやさしいフレームの開発」という高い目標・コンセプトを掲げて開始した。

同社は、助成事業に取り組む前となる平成23年から、愛媛大学や香川県産業技術センターに相談を行いながら、CFRP製自転車部品の試作に着手していた。さらに、平成25年には、四国経済産業局主催の炭素繊維加工高度人材育成事業にも1年間参加して、CFRPの基礎・応用について体系的に学習していた。

このような事前準備や最新の技術情報をベースに、①基本設計・ジオメトリー(寸法測定・決定)→②3次元CADによるモデリング→③CAE*2構造解析→④積層・材料設計→⑤金型設計・製作→⑥成形加工→⑦評価・性能試験の開発を進めることを計画した。

しかし、いざ開発を開始すると素材を含め、成形・加工まで国産での取り組みが国内初の試みであったことや高度な成形手法、新しい複合素材を導入する必要などが生じ、困難を極めた。

特に、フレームの試作工程では、「プリプレグ*3」と呼ばれる炭素繊維強化プラスチックシートを1枚ずつ手作業での貼り重ね(積層)が必要であった。しかも、フレームの曲面部分や荷重部分、結合部分など各部位に応じて、積層枚数や貼り重ね角度などの微調整が必要になるため、CAE構造解析でのシミュレーションで得られた設計データどおりに手作業で行えるかが最大のハードルであった。

肝となる積層工程では、当初、フレーム金型にシリコンを一旦注入して、凝固したシリコンを取り出してプリプレグを順番に積層する「シリコン型積層法」で試したが、熱硬化後の膨張をあらかじめ計算して寸法管理する必要があり、作業は難航した。そこで、シリコンを使用せず、フレーム金型に直接プリプレグを圧着させながら積層する「ステップ積層法」に切り替え、金型両端部への積層を階段状に行う工夫を施したところ、「シリコン型積層法」に比べて高品質の仕上がりが実現できた。

*2 Computer Aided Engineeringの略称であり、設計段階にて、コンピューター上に疑似的に再現した製品に関する強度や熱伝導などの設計問題を評価すること
*3 炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたシート状の材料であり、タテヨコに織られた織物材の形態などがある

目標は2020年東京オリンピックの自転車競技

すでに試作品は完成しており、同社既存のアルミ製フレームのミニベロの重量が7㎏台であるのに対して、CFRP製は6㎏台まで軽量化が図られ、強度は鉄の10倍の剛性が確保できる見通しであった。素材の研究が終わったため、最終的なデザインを固めて、平成29年春頃の発売を目指している。

今後は、メジャーブランドの高性能自転車の乗り味に満足できていない層やハイセンスデザインに敏感な層などをターゲットに販売を行う予定であり、そのためにも発売前から試乗会やプロモーション活動に取り掛かることを計画している。さらに、早い段階から、ロードレースの有力選手への供給によるPR活動を進める予定であった。

そして、廣瀬社長の夢は「2020年東京オリンピックの自転車競技で、当社のロードバイクが駆け巡ることです」と将来の思いを熱く語ってくれた。

▲3次元形状データの作成(モデリング)を重ねる

新商品にかける熱き想い!!

お客さまに感動していただけてこそ、事業の成功といえます。
地道な研究が必要ですが、確実な研究の成果を一日も早く出し、我々の力で最大限高性能の自転車をお客さまにお届けしたい!

代表取締役 廣瀬 将人 氏

有限会社アイヴエモーション

会社概要

所在地 さぬき市寒川町神前1430-1
電話 0879-49-1613
URL http://www.tyrellbike.com
従業員数 7名
資本金 2,400万円
採択年度 平成26年度