アクリル樹脂を使用して自由自在なデザインを可能に
高級文具の代表格である万年筆。スマートフォンやタブレット端末などが普及しても書き味やデザインにこだわった、お気に入りの一本を持ちたいという人も多い。
かつて木工職人として腕を磨いた諏訪匠さんは、こうした人々の願いを実現するために平成25年、完全オーダーメイドの手作り万年筆工房『helico』を創業した。カジュアルで身近なデザイン、それでいてオリジナリティの光る、世界に一つだけのオーダー万年筆が人気を呼んでいる。
数万円~数十万円もする海外ブランドの高級万年筆も、ほとんどがコンピュータ制御による機械生産で、デザイン等のバリエーションも限られている。helicoの万年筆は、ペン先以外は諏訪さんの手づくりで、顧客の好みに合わせて形や大きさを0.1ミリ単位でカスタマイズしてくれる。
最大の特徴はカラフルなアクリル樹脂製の本体。材料は主にアメリカから取り寄せる。今まで使ったアクリル樹脂は100種類以上で、削る部分によって模様が変わるため、文字通り「世界に一つだけ」の万年筆が出来上がる。
欧米で『ペンターナ』と呼ばれる万年筆職人は、我が国ではわずか数名。その中でもアクリル樹脂を主な材料として使うのは諏訪さんだけだ。手づくりにもかかわらず価格も2万円前後で、最高でも15万円までと比較的手ごろだ。
万年筆といえば、大人の男性が使用するイメージが強いが、helicoの商品は樹脂の美しい模様とカジュアルなデザインが好評で、ユーザーは女性が大部分、また、若年層にも人気で中学生が九州からわざわざ買い求めに来たこともあるという。
アクリル樹脂の素材を最大限活かしたデザインを追い求めて
木製万年筆の場合、縮みや割れを防ぐため木目に沿って加工を行う。一方、アクリル樹脂は、どの方向からも加工が可能で、経年劣化も少ない。ただし熱に弱く、熱膨張にも注意が必要だ。また表面にキズが目立ちやすいので、仕上げの研磨には高い技術力が求められる。
諏訪さんもアクリル樹脂に出会ってから、商品としてクオリティを高めるまでに約2年半の歳月を要した。「表面を美しく仕上げるには、かなり苦労しました」と、当時を振り返る一方「まだまだ、これからですよ」と、技術向上に余念がない。
helicoの万年筆はキャップをネジで閉める『ネジ式万年筆』。少ない回転数で開け閉めできるようにキャップ内部と本体に『四条ネジ』という特殊なネジ切り加工が必要である。
以前は直接、樹脂にネジ切りすることができなかったため、止むを得ずその部分は市販の金属部品を使用していた。しかし、諏訪さんは、アクリル樹脂の美しさを最大限に活かそうと専門家の指導の下、専用のネジ切り装置を独自に開発。大きな課題を克服し、本体をすべてアクリル樹脂製にすることに成功した。
「ネジ切り装置の開発は5年くらいかかると思っていましたが、中小企業応援ファンドのおかげで、わずか1年で実現することができました」と諏訪さんは大きな手応えを感じている。
業界からも熱い注目!トータルブランドイメージ確立に向けて
日々万年筆を制作するなかで、諏訪さんは「欧米の”サイン文化”に対して、日本は”印鑑文化”。万年筆愛好家は決して多くはありませんが、こだわりは強いです」と感じており、150以上にも及ぶ工程を自らの手で丹念に仕上げている。
「特別なものとして飾っておくのではなく、『毎日使いたくなる万年筆』をコンセプトにしています。使い込むほどに味が出るので、僕が作るのは90%まで。残りの10%はお客様自身に育てていただきたいと思っています」と自らの商品に対する思いを語る。
最近は若手ペンターナとして注目が高まっており、全国の百貨店などで開催されるギフトフェアなどに招待されるほか、一流メーカーが集う「万年筆サミット」にも参加するなど活躍の場はどんどん広がっている。
「万年筆はトータルイメージが大切」という思いも強くなり、ギフト用パッケージやリーフレットにもこだわり、ブランドイメージの確立に注力している。日常に華を添える「こだわりの逸品」である世界に一つだけのオーダー万年筆に期待が集まる。
新商品にかける熱き想い
助成金を受けたのも「クオリティの高いものをつくりたい」という一心があればこそ。とはいえ、今回の取り組みの結果として従来とは違うレベルの取引やネットワークができたことで、ものづくり以外で学ぶことも増え、経験の幅が広がりました!
helico
会社概要
所在地 | 高松市国分寺町新名491-6 |
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電話 | 070-5354-5987 |
URL | https://helico.theshop.jp/ |
従業員数 | 1名 |
採択年度 | 平成26年度 |